2005年10月22日から一般公開された東京モーターショーでZafira-Bが登場しました。2006年1月(05年内という情報もあるようです)からの販売はすでに決定しており,市販予定そのままの状態での展示です。もとZafira-Aユーザーとしての気になる点をいくつかチェックしてきましたので報告しておきたいと思います。
今年のオペルブースは奥の方にありました。平日ということでたいした人出ではなかったのですが,それでもかなりにぎわっている会場を進んでいくとザフィーラの姿が見えました。実物と対面したのは初めてで,第一印象は「ちょっとスマートになったかな」でした。先代の印象を上手く残しているので,ちゃんと「新型」ザフィーラに見えるようになっています。でも,先代で印象深かった「凝縮感」のようなものはあまり感じません。
なんとなく「間延び」して見える原因のひとつはオーバーハングの割合が大きくなったことにあるようです。上の写真のように感覚だけでもフロントオーバーハングは長くなったように見えますが,とりあえず寸法を詳しく比較してみましょう。
Zafira-B | Zafira-A | 比較 | |
(1)全長 | 4,465 | 4,315 | +3.6% |
(2)全幅 | 1,805 | 1,740 | +3.7% |
(3)全高 | 1,660 | 1,675 | -0.9% |
(4)ホイールベース | 2,705 | 2,695 | +0.4% |
(5):(2)/(1) | 0.40 | 0.40 | |
(6):(3)/(1) | 0.38 | 0.38 | |
(7):(4)/(1) | 0.61 | 0.62 |
Zafira-Bの方が長く幅広くなっていて,さらに背も低くなっているのがわかります。最初に感じた「スマート」さの原因はここにあります。一方,ホイールベースは全長が伸びた程には大きくなっておらず,短いボディにできる限りホイールベースを長くとることで生まれていたZafira-Aの凝縮感は薄れることになるわけです。(5)全幅/全長比と(6)の全高/全長比は変化がありませんが,(7)のホイールベース/全長比はやはり小さいのもこの印象を裏付けています。
15cm伸びた全長はなんのために使われたのかが気になります。あまり細かくはチェックできませんでしたが,2列目足下はあまり変化がなかったように思います。7名乗車時のカーゴスペースもそれほど大きくなった印象はありません。ホイールベースは1cmしか伸びていないわけですから,室内スペースにそれほど変化がないのは当然かもしれません。 Zafira-Aの魅力は安全性と多用途性を高いレベルで両立したシートアレンジにありました。ここに変化はあるのでしょうか。2列目からチェックしていきます。シートバックは2:1:2の3分割で,2段階にリクライニングすることができます。寝かせておくか立てておくかということになりますが,写真で見るとあまり変化がわからないかもしれません。私には「寝かせた状態」はやや倒れすぎで,座面との角度がしっくり来ない印象を受けました。真ん中の部分は倒すと肘掛けとして使用でき,カップホルダーが内蔵されています。ただ,この位置で使用する場合,助手席側シートの人は中央席用のシートベルトが邪魔になりますね。なお,中央だけでなく両端のシートバックも倒すことができます。
Zafira-A同様2列目の座面を跳ね上げて全体にスライドさせることもできます。しかし,今回も座面は一体で分割スライドは不可能です。これが可能になればAユーザーに対するアピール度はかなり大きくなる(家族を説得しやすくなる?)はずで,何らかの回答をオペルが用意してくれることを期待していたのですが残念です。 3列目の使い勝手はAとかわりません。ただ,欠点もAと同じで,サードシート使用時の固定部分が傷みやすくなっています。丁寧に扱えばあまり問題にならないのですが,展示車のような状況だと数日で写真のようになってしまいます。おそらくシートバックの傷はある程度見切った設計なのでしょうが,「プレミアム」を名乗りたい(=少しでも高く売りたい)のなら放置しておいてはいけない部分だと思います。 助手席シートバックが倒れるのもAと同じです。また,カーゴルーム後端に小さな工具入れがあるのも同じです。片手では絶対に操作できず,いったん開けると閉めるのが面倒という欠点もAと同じです。ジャッキはパンタグラフ式になりましたが,ここはAと違います。 安全性にかかわる部分もAと変わりないようです。ここはよかったと思える部分ですね。すべての席できちんとヘッドレストをあわせることができます。ヘッドレストの上下調整は前に傾けて引き上げる方式から,横についているボタンを押して引き上げる方式にかわりました。シートに入っている部分は固定されていて,ヘッドレストに入っている部分が伸び縮みするのも同じです。サードシートのシートベルトは少しかわりました。ベルトを引き出してシート横のリングに引っかける動作が必要になりました。使用頻度が少ないのであればこちらの方が便利だと思いますが,金属同士を繋ぐことになるので使用時にはカチャカチャと音が出るのではないでしょうか。なお,ネットの固定位置は上下とも移動できるようになり,荷室を仕切って使うことができるようです。
ワイパーが右ハンドル用になったことは大書しておくべきですね。Aオーナーからすればとてもうらやましい部分なのではないでしょうか。また,ブレードがフラットブレードタイプにかわりました。
運転席からの視界はあまり変化がありません。今回からサイドエアバッグはピラーに内蔵されるようになりました。運転席のデザインも最近のオペルのトレンドに沿ったものになりました。セレクトレバーはいわゆる「インパネシフト」のような形になりましたが,どうせここまでやるならウォークスルー化も検討した方がいいように思います。インパネ中央上部の見やすい位置にディスプレイがついています。この大きさであれば,おそらく車両情報表示のみでナビは装備していないものと思われます。オーディオも空調もパネルにはほとんど表示がありませんから,このディスプレイに頼る度合いは多そうです。ハンドルのスイッチも増えています。ウィンカーレバーは機械的な手応えのないタイプです。
目に付いたのがパーキングブレーキのレバーです。かなり大仰なデザインで,作動状態ではおそらくカップホルダーに立てた飲み物やシガーライターと干渉するのではないでしょうか。さらに,レバー自体の剛性が低いのか,あるいは取付剛性が低いのか,ぐらぐらして力がうまく入りません。力の加減ができないと思い切り引っ張ってしまうわけですが,そうするとなかなか解除できません。まさか左右ハンドルで共用するためだけにこのデザインにしたのではないでしょうが,ちょっとこのままでは受け入れられないと思います。
細かい造りについてはあまり大きな差は感じられませんでした。展示車のスペアタイヤはノーマルと同じ(ブリヂストンのトランザER300)でしたが,フューエルリッドにはテンパータイヤの空気圧表示があるので,グレードによって差がつけられたのかもしれません。だとすると悲しいことですが。
エンジンは直噴2.2リットル1機種です。おそらく,これまでの2.2リットル仕様を直噴化したもので,排気系の取り回しなど目に付く部分の変化は感じません。よくみると,バッテリーのカバーが無くなっています。また,ボンネットのロック解除レバーはボンネット側に移動しました。
あまり「昔はよかった」的な話はしたくないのですが,Zafira-Bに対しては大きな進歩が感じられなかったというのが正直な感想です。Aで感じていたいくつかの欠点がそのまま残っている上,美点の方は逆にいくつかが失われてしまっているからです。もちろん,乗ってみたらまったく別物に進化していたということはありえるでしょうし,内部の機械的な信頼性が大幅に向上しているかもしれません。ですから,最終的な判断は保留しなくてはなりません。
ただZafira-A登場当時と比べると,同クラスにVWトゥーランという強力なライバルが登場しています。7人乗れなくてもいいのならベンツのBクラスというこれまた強敵がスタンバイしていますし,フォードのフォーカスCマックスも結構よくできています。旧型オーナーにすら強い魅力を感じさせないような新型では埋没してしまわないかと心配になります。
すでに価格も発表されていますが,これはAに比べるとずいぶん進歩しました。CDとsportの2グレードで,それぞれ税込で269万円と299万円です。Aは1.8リットルで税込303万円でしたからずいぶん安くなりました。しかし,Aの2.2リットル版はトラヴィックとして税込250万円以下で売られていたことを考えるとまだまだ高いようにも思えます。 トラヴィックはタイ製だったから云々……とインポーターはきっと言うのでしょうが,トゥーランが271.9万円(1.6リットルですが)から手に入ることを考えると,やはり250万円以下が適当なのではないかと思います。「適正水準」までの値引き販売が常態化するかもしれませんし,販売量が少なければ「適正水準」はもっと下がることになりますが……
結局,オペルが日本市場で評価を得られないのは「オペルでなければ得られない世界がない」ことにつきると思います。もちろん,数が少ないことに意味を見いだす人もあると思いますが,数が出ないことには売り続けることもできません。Zafira-Aには確かに独特の世界がありました。「ヨーロッパのミニバン」が珍しいものでなくなってきたいま,再び大胆な提案が必要なのでしょうが,Zafira-Bではちょっと力不足という気がします。
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